みなさん、こんにちは。
突然ですが、「おこと」と聞いてどんな漢字を思い浮かべましたか?ほとんどの人が「お琴」と思ったのではないでしょうか。では、試しに「琴」で検索してみてください。すると、「琴」という字のほかに、「箏」という字が出てくると思います。お琴を習ってみたいけれど、自分が習いたいのはお琴?お箏?と混乱してしまう方もいますよね。そんな方のために、「お琴」と「お箏」の違いについて説明していきます。
琴と箏について
音読みすると琴は「きん」、箏は「そう」と読みますが、訓読みになるとどちらも「こと」と読みますよね。このふたつ、一体何が違うのでしょうか。
実は「琴」と「箏」は同じ絃楽器の仲間なのですが、全く違う楽器なんです。では何が違うのか、どうしてどちらも「こと」と呼ぶのか、解説していきますね。
琴と箏の違いは?
大きな違いは、柱を立てるか立てないかです。別のブログでも書きましたが、柱は胴に立てて絃を持ち上げ、移動させて音の高低を調節するものです。この「柱」があるのが箏、ないのが琴です。箏を弾く際には柱が必要不可欠になります。そして、現在みなさんが目にするほとんどの「おこと」は、柱のある「箏」の方になります。それではそれぞれの楽器の特徴を簡単に説明しますね。
琴ってどんな楽器?
琴は歴史が古く、弥生時代にはすでに琴の原型となる楽器があったことが遺跡の発掘などでわかっていて、琴を弾いている人の埴輪もみつかっています。
琴は柱がありません。弾く時に左手で絃の目印の場所を押さえて音程を作ります。絃は主に7本で、5本のものもあります。演奏するのがとても難しい楽器と言われていてたびたび日本の音楽史から消えてしまいますが、伝統を伝えようと復活し今でも演奏家が伝承し続けています。かの有名な源氏物語では、光源氏がこの「琴」の名手だったと書かれています。源氏の君がいかにスーパースターかを伝えるのに、そんなに難しい楽器をも弾きこなせるという設定は、当時の人たちにはわかりやすかったのかもしれませんね。
例外として、日本古来から伝わっている和琴(わごん)は、「琴」の字を使うのですが柱がある楽器です。
箏ってどんな楽器?
奈良時代に入ると、中国(当時の唐)から箏が伝来しました。箏は柱を立てて絃を持ち上げ、柱を左右に動かして音程を調整しながら弾く楽器です。絃は基本的なものは13本です。時代や曲に合わせて17本や25本など絃の数を増やした箏が作られ、種類がだんだんと増えています。現在、一般的に「こと」というと「箏」の方の楽器を指し、どこかで目にしたことがあったり実際にみなさんが習っているのも、この箏の方です。
どうして両方の字を使うの?
もとは違う楽器なのに、なんでどちらの漢字も使うのか、ややこしいですよね。
ややこしくなったのは2つの要因があります。
1.そもそも、「コト」というのは絃楽器の総称をあらわす大和言葉でした。先述の源氏物語でも「箏(そう)のコト」「琴(きん)のコト」「琵琶(びわ)のコト」と記されているところがあります。その後、琵琶がコトの仲間から独立して「琵琶」となりましたが、琴と箏はそのまま変わらずにコト群に属していました。やがて琴の方の楽器が歴史から消えていき、必然的に、「コト」と言ったら箏の楽器を表すようになったのです。琴も琴(きん)、箏も箏(そう)とそれぞれ独立していたら、素直に「箏」=「そう」と呼ばれて、ややこしくならないで済んだかもしれませんね。
2.実際の楽器は琴ではなく箏の方が残って演奏されていたのに、なぜ「こと」には現在も琴という漢字が使われているのでしょうか。それは、「箏」という漢字が常用漢字から外れてしまったからです。ほかに「コト」の楽器を表す漢字がなかったので、琴の字をあてて代用し、「きん」ではなく「こと」と読ませるようにしたんです。それで、箏(そう)の楽器を弾いているのに琴という字で表されるというややこしい状況が今でもみられます。馴染みのない箏の方の漢字も今では常用漢字になりましたので、少しずつではありますが箏の漢字を使う人が増えてきています。
まとめ
琴と箏の違い、なんとなくわかりましたでしょうか?
どうしても、琴の漢字の方が浸透していますので、まだお箏を知らない方に伝えるときには「お琴教室」というように、まだまだ「琴」の字を使うことも多いです。でも楽器が違うことをわかっている、楽器を作る方やプロの演奏家は「箏」の字を使います。そして、「琴」は「きん」とは読まないのですが、「箏」は「こと」と「そう」をその時々で使い分けています。「箏演奏家」「箏コンサート」などは「こと」と読みますし、「箏曲演奏家」は「そう」と読みます。これからは、実際に弾いている箏という楽器と漢字が一致していくようになればいいですよね。お箏を習っている方は是非、「箏」の方の漢字を使ってくださいね。